建築士さんと家を建てよう

 permanentの職を取ったら、とか、子供が小学生になる前に、とか理由はいくつかあると思いますが、住まいを賃貸から所有へ、と考えますよね。ここではどちらが得か、という議論はしません。単に、家を建てるのは面白い、という話です。小学校の時の卒業文集を見ると、将来建築家になる、と書いていた私なので、バイアスがかかっているかも知れませんが。

もし、職場に近くて、あるいは配偶者の職場とあなたの職場の中間点あたりに住環境の良い地域があって、将来的にもそれほど値段の下がりそうにない所で土地が買えたら、あるいは、ご(義)両親が土地を提供されて二世帯住宅の提案をされたら、建築士さんに設計・監理を依頼して家を建てましょう。

もし、我々研究者の様な変わった人間の言うことを聞いてくれる建築士さんに巡り合って依頼出来れば、当然ながら設計監理費として、建築費の10%程度取られますが、良い工務店を選んでくれる、こちらの希望を徹底的に叶えてくれる、施主支給などのやり方でなるべく安く建てる様に努力してくれる、などのメリットがあり、結果として満足の出来る家が出来上がると思います。

最近自宅と両親の家を売却する機会があり、インターネットのロング・テール効果を実感しました。2軒とも、普通の家からは3シグマ位離れた感じの築20年以上の家だったのですが、それぞれ「まさにこういう家を探していた」と言う買い手が比較的すぐ現れて思っていたよりもずっと高い値段で買ってくれました。なお、家と庭は注意してできる限り良い状態に保つ様にはしていました。ので、皆さんが趣向を凝らしたこだわりの家もそのせいで売れないと言うことはないと思います。

家に求めるもの

まずは家に何を求めるか、を考えます。例えば、今なら耐震性能とゼロ・エネルギーでしょうか。高い耐震性能の家は、建築士さんは建てた事があると思いますが、ゼロ・エネルギーは殆どないと思います。そこで、研究者である貴方の出番です。貴方が計算すれば良いのです。

耐震性能を高くするには、一階の窓を減らして壁を増やすのが大事なので、一階に寝室や浴室を配置します。二階にリビングとキッチンを配置して、窓を大きくして明るくします。あとは建築士さんの出番です。

紙で物を見るのが好きな方はこの段階でA3がプリント出来るプリンタを購入する事をお勧めします。少なくとも数年前はちょっと探すと結構小さなフットプリントでA3用紙が使えるプリンタがお安く購入できました。私はBrother MFC-J4910CDWを使っています。積算ポケット手帳の最新版も入手します。

建築士さんとの出会い

建築士さんは沢山いらっしゃって、それぞれしっかりとしたホームページを作っていらっしゃるので、自分の求める家に方向性が合っている、完成写真を見て気に入った、みたいな方は比較的簡単に見つかると思います。建築士さんは、結構行動範囲が広いですが、現場に近い方はそれなりにメリットがあると思います。

面談してこちらの希望と予算を言って、その土地の条件に合う建物を提案(プレゼン)してくれる、と言うところまではよほど忙しい方でない限り、どなたも無料でやってくれると思います。しかし、数週間の期間と、お互い何時間かの時間もかかりますので、面談する前にメールで色々やり取りするのが良いと思います。自分達の話をきちんと聞いてくれそうだな、とか、新しい事にも取り組んでくれそうだな、とか感じたら、面談に進むのが良いと思います。

もし今丁度建築中の建物(現場)があれば、いずれにせよ勉強になりますので、案内してくれるのであれば案内してもらうのが良いと思います。個人の住宅を建ててくれる普通の規模の建築士さんは、年間5-15棟位、いつも2-4軒位の現場を持っている、位のイメージです。最近は保育園とかの建築とか、店舗の内装、住宅リフォームもされると思いますので、必ずしもいつも新築の、安全性から考えても見せるのに丁度良い現場があるとは限りません。

通常の小規模の建築事務所であれば、所長の建築士さんの他に、若い、一級建築士を目指しているレベルの建築士さんが居らっしゃって、その方が図面を書いたり、貴方がこれは?といった部材のカタログを取ってメーカーに電話して調べたりしてくれます。

プレゼンの段階で、工程表と設計監理契約書の案、設計監理契約の支払い方法等の説明もあると思うので、良く聞いて疑問点があれば追加の説明を求めます。

制約条件

家を建てる際には様々な制約条件があります。かなりの数の条件については土地を購入する前に慎重に検討しておく必要がありますし、土地の売買契約の前には確認が求められます。その際には十分納得してそれらの条件を受け入れたとしても、実際に家を建てる際には制約条件の中で設計しないといけません。建てる際に要求する条件もあります。例えば、耐震性能であるとか、断熱性能であるとか、ゼロ・エネルギー・ハウスとかです。予算の制約もあります。制約条件の中で如何に住み心地の良い家を設計できるか?が建築士さんと貴方のチャレンジとなります。

概念設計

家にも概念設計と詳細設計の段階があります。基本設計と実施設計と言う様です。例えば、基本設計の段階では間取り等を大幅に変えられます。どうやってこの家に住んでゆくか、各部屋各場所を使用しているイメージを描きつつ設計してゆきます。大項目で実現できそうもない事はこの時点ですっぱり諦めます。例えば、泊まりにくるお客さんの為の和室が欲しい、とか(広い)書斎が欲しい、とか、屋根はどうしても日本瓦に、とかです。部屋数を少なく、一階と二階は同じ形に、が理想です。うちはいつも二階はLDK一部屋です。

建築士さんとの打ち合わせは2週間に一回程度かと思います。打ち合わせの1,2日前には図面を送ってもらってそれを良く見て疑問点・希望を書き留めておきます。打ち合わせが終わったら、必ず議事録(必要であれば変更した図面)を送ってもらって、承認するようにします。

制約条件の中で間取りが収束してきたら基本設計は終わりです。3Dの図面を作ってくれるので、それを見ながらああしたらこうしたらと言って楽しい時間を過ごすことが出来ます。

建築図面には「通り」があります。X1通りとかY1通りとかです。建築図面の座標系なのですが、普通の座標系と違うのは、通り間の間隔が一定ではなく、必要な所に通りを通す事です。X1とX2の通りの間隔が何ミリか、とか図面に書いてありますので、それを良く見て理解します。

構造計算

建築士さんによっては、特に高い耐震性能を要求したら、構造の専門の設計士さんに構造計算を依頼します。通常の木造2階建の設計では壁の耐力を数える事で、構造計算を省略出来るのですが、やっぱりやってもらえると安心です。これは、建築士さんを探す段階で確認しておいても良いかも知れません。

構造計算が出来たら、構造計算書をくれます。これは見ても良く分かりません。でも柱が立っている図面を見ると、ああ、こうやって家ができるのか、とは思います。梁の高さ(厚み)がとても高いのに驚くと思います。一時期ロシアからの集成材が入らなくなって更に高くなってしまったと聞きましたが、今はどういう状況かは分かりません。

昔の常識も通用しません。昔は四隅は通し柱、とか、柱は4寸が良い、とかありましたが、今は通し柱とか、輸送できないので使いませんし、製材所では殆ど3.5寸に製材するので、4寸柱がない、とか流通系の条件でかなり常識が変わって来ています。金具も使われてしまいます。アンカーボルトのズレが気になるので、土台は4寸の檜(または青森ヒバ)が良い、とか位なら主張できて叶えてもらえるかも知れません。

詳細設計

概念設計が終了したら詳細設計が始まります。詳細設計の山場は、建築士さんに見積もりの出来る図面を書いて貰って、複数の工務店に見積もりを依頼し、その見積もりを比較検討する事です。その段階で、工務店が建てている現場(あるいは完成直後の家)を訪れて、見せてもらいます。これらの手筈は全て建築士さんがやってくれるので、鷹揚に構えていれば良いです。

見積もりの段階でなるべく正確な金額が出るように、後からの変更が少ないように、詳細に渡って検討します。断熱性能とかから始まって、照明、コンセントの位置、高さなどまで、置きたい家具が決まっていれば実際に図面上で配置してみて動線を検討します。システムキッチン(あるいはオーダーキッチン)やシステムバスも大体決めます。PanasonicとかTOTO, オーデリックのショールームを訪れるのもこの頃です。全てにこだわることは予算上難しいと思いますが、建築士さんと相談しながら拘りたい部分には拘ります。

EVを買おうと思っているのであれば、充電設備、太陽光、蓄電池などもこの段階できちんと検討しておきます。この辺りは、建築士さんもそれほど詳しくはないと思いますので、貴方が頑張れる分野です。

外構も出来る限り詳細設計に含めます。結構お金がかかるし、最終的な工事金額を知る為には重要です。

工務店選び

現場に近い建築士さんであれば、現場に近い工務店さんを知っています。理想的には、数社知っていて、貴方の家にはこの工務店が良さそう、というイメージを持っていて、既に何回か一緒に仕事をした事があって、その工務店の中でもこの現場監督さんが、とかこの棟梁さんが、と言うのを具体的に知っているような状況が良いです。建築士さんとしても、自分の作品を如何に良く具現してくれるか、大切な所です。妥協はしません。施主支給に喜んで対応してくれるかも重要です。

数社の工務店から見積もりが来たら比較検討します。建築士さんのところで、比較表みたいな物を作ってくれます。値段が大きく違っている部分があれば詳細に検討します。「照明は支給します」みたいに言っておけば照明は工事だけ、概算で入れておいてくれたりする場合もあります。本当に工事を請け負いたいと思っている工務店は真剣に見積もってくれます。見積書を良くみているとそれがわかる事があります。

工務店とも面談します。大概は社長さんとも少しは話せます。営業・設計・積算部の方と話す場合が多いですが、もし既に建築士さんが依頼した事があって、現場監督さんや大工さんをよくご存知、と言う状況でない限り、現場監督さんや棟梁さんの話も良く聞くようにします。現場監督さんや大工さんは平日は現場に出ているし、面談することが多い日曜日には休みなので、実際には会えないかも知れませんが、それは多分構わないと思います。棟梁さんが工務店の社員で、専従である事を確認するのは重要です。現場も見せて貰えるようなら見に行きます。

VE/CD

工務店が1社か2社絞られた段階でVE/CDと言われる検討をします。VEはvalue engineeringでCDは素直にcost downです。見積もりが予算オーバーなので、仕様を落とすなりして、金額を下げると言う事です。同じ意味です。主に建築士が、時には工務店さんの方からVE案を提案してきます。自分でも、これをやめたら安くなるだろうな、と言う心当たりがあると思うので、それを提案します。よほどの部分(例えばロフトの仕上げとか)でない限り、自分でやる、と言うのは提案しないようにします。キッチンとか、過ごす時間の長いところはなるべく妥協しないようにします。基礎には十分お金をかけます。ここでも予備費は使い切らないようにします。

地盤調査

並行して、あるいは工務店と契約してから地盤調査をします。地盤調査会社は、地盤補強の会社の関連会社ではない会社を選びます。地盤保証・建築保証にも関係するので、工務店が選ぶ場合もあります。ただ祈るのみです。土地を購入する際に、「田」とか水に関係ある漢字が入っている地名は選ばないようにします。それでも、掘ったらすぐ岩盤という土地以外では何らかの補強が必要、と言う調査結果が出ます。もし、補強不要、と言う結果が出たらおみくじの大吉に当たったと思ってください。

「補強すべし」と言う御宣託が下ったら、補強方法の検討をします。なるべく合理的に、安全に安くすむ方法でやります。つい最近古屋建物を解体したばかりで表層の地層が安定していないだけだと思われる場合には、表層に限って改良します。土地によっては補強の際、あるいは基礎工事の際、掘ったらガラが出てくる場合があります。ガラは法律によって、埋め戻すことは出来ません。言われた通り処分するだけです。土地の売買契約書を読み返してみて、売主の負担で処分出来ないか確認します。

建築確認申請

建築確認が降りるまで、工事は出来ません。もし建物を共有にすることを決めているなら、請負契約や建築確認の申請書も共有にしてもらいます。この辺りから、もらう書類は全部きちんと整理して取っておきます。地盤調査の報告書とかからです。確認済証とか、数十年後に家を売却する際に必要になります。(市町村の方でも記録は取っているので、貴方が持っていなければ、市町村の記録が使える場合があります)

地鎮祭

建築確認が降りる予定が決まったら、工事の日程表を貰います。一番最初は地鎮祭です。手配は現場監督さんがやってくれます。神主さんにお礼をして、建築士さん、現場監督さん、棟梁さんに祝義を渡します。棟梁さんには初めてお目にかかることになりますが、丁寧にご挨拶します。近隣へのご挨拶もします。建築期間中、業者さんが路上駐車したり、音を出したりして近隣の方には大変ご迷惑がかかるので、丁寧にご挨拶します。

基礎工事

基礎工事は施工不良が多い工事なので、十分に注意を払います。とは言っても自分で出来ることは限られています。良い工務店だったら、多少高くても、信頼できる、いつも使っている基礎屋さんを使ってくれます。クレームが来やすいのも基礎なので。

鉄筋を組んだら建築士さん(と構造設計を担当してくれた建築士さん)、審査機関の検査員が確認します。鉄筋の太さが違っているとかかぶり厚が足りないとかアンカーボルトは田植えにしないとか、開口部の補強の鉄筋が足りないとか、注意すべき点は沢山あるようです。生コンクリートの強度のチェックもされると思います。現場で加水されるとかずっと見ているわけにもいきませんので、やはり信頼できる業者さんにやってもらう以外にはありません。

時期としては真夏と真冬は避けるようにします。土砂降りでなければ打設後に雨が降るのは悪くないそうです。打設後十分時間を取って貰って次の工事に移ります。次の工事に移る前に基礎に水が溜まっていないことを確認して水が溜まっていたら汲み出す等対処してもらいます。完全に乾いているのが望ましく、工事が始まったら基礎に水が溜まらないようにするのが大切です。

木工事

現在はプレカットが殆どですので、大工さんが現場でノミと槌をふるったりすることはありません。2階建でも上棟まではサクサクと進みます。上棟したら雨が掛からないようにまず屋根を取り付けます。屋根が付いたら一安心ですが、暴風雨の時など、吹き込まない方にしっかり養生してもらいます。

建築士さんとの契約が設計・監理契約となっている様に、建築士さんはそれぞれの段階でチェックする義務があります。「欠陥工事」と言う本がある位色々な事が起こる可能性があります。例えば釘には頭に色がついていて、どこにどの釘をどの間隔で打つかが決まっています。間違うと構造上弱い建物になります。アンカーボルトの締め忘れも後からでは直せません。建築士さんがきちんとチェックしに行ってくれていることを確認します。

この辺りから工事のペースが落ちます。大工さんが一人で工事を進めます。

色々なものの色を決めたり最終的なスペックを決めたりするのもこの頃です。見本を送ってくれる場合もあります。自分でショールームに行って決める事もあるかと思います。一旦決めたら変更しないようにしましょう。

設備工事

電気・水道・ガス等の工事です。変更があったり、想定していないことが起こります。一番良くないのは梁に穴を開けて線を通したりすることです。設計段階では気がつかなかった、仕方のない場合もあるので、絶対ダメとは言わないで、相談に乗って、必要があれば補強してもらいます。

施主支給の場合、期日までに支給品が届くように手配します。現場に届ける場合は、必ず現場監督さんに数日前に知らせます。工務店に送って欲しいと言われたら工務店に送ります。特に高価なものを現場に送るのは良くない様に思います。

この頃から現場に行くと新しい家の形が見えてきて、変更したくなるかもしれません。可能であればやってくれますので、建築士さんに相談してみましょう。手順としては
  1. 貴方が建築士さんと相談
  2. 建築士さんが現場監督さんと相談
  3. 現場監督さんが必要であれば大工さんや設備屋さんに相談
  4. 現場監督さんが追加工事(あるいは減工事)の見積もりを作ってこちらに戻って来る
  5. 見積もりを承認して工事が変更される
です。くれぐれも現場の人に直接何かを依頼しないようにしましょう。

竣工

待ちに待った竣工日が近づいてきました。この頃になるとやるべきことが沢山溜まってテンパってきます。心に余裕を持って取り組みましょう。建築士さんも次の仕事が佳境になってきます。建築士さんがオープンハウスをしたいと言ったら是非やらせてあげてください。

既に貴方も建築のベテランになっていることと思います。お疲れ様でした。新居での生活をお楽しみください。



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